僕たちの医療財団は積極的に英語で医学論文を作成して、それを海外の雑誌に発信しています。このことは医学の発展のために大変重要であるばかりか、自分たちのこれまでやってきたことを反芻し、これからの治療成績の向上のためにやらねばならないことです。その一方で、論文は書けば絶対雑誌に掲載してもらえるわけでなく、専門家による厳しい審査を受けなければなりません。
古閑は論文執筆や論文作成指導だけでなく、この審査の仕事も度々行っております。この審査のことをreview「レビュー」と言います。ちょうど立て続けに3報論文の「レビュー」の依頼が来たので、「レビュー」とはどんなものか少しお話します。
「レビュー」の依頼は、最近はメールで来ることがほとんどです。これは出版社がその領域の専門家と判断して送ってくるのですが、これまでの英語での論文投稿が、専門家かどうかの判断になります。僕の場合は「内視鏡脊椎外科」の論文を中心に執筆しているので、「内視鏡脊椎外科」の専門家として、各出版社からは認知されています。まだ審査の段階ですので、詳細は語れませんが、今回送られてきた論文の内容は下記です。
- 高位の腰椎椎間板ヘルニアでは固定を伴う術式と除圧だけの術式のいずれかが適切かどうか。
- 腰椎椎間板ヘルニアの発症に関わる遺伝子変異の有無。
- FESSで腰椎椎間板ヘルニアを手術した際の血清免疫学的変化
読んで頂いただけでも腰椎椎間板ヘルニアに対して様々な研究が行われていることが解ります。またこれらの審査をするには腰椎椎間板ヘルニアの知識にとどまらず、遺伝子(実はこれ僕が研究者であったころ深く研究しており、おそらく出版社は僕の研究者当時の業績も加味して依頼してきたものと思います)や免疫学(これも以前研究しておりました)など幅広い知識が要求されます。ですので「レビュー」を行うことは、論文執筆する以上に大変な面があります。特に審査をするために更に別な既に出版されている論文にも目を通さないとならないからです。また自分の英語力がNativeと比較すれば不十分にも関わらず、Native speakerの英語を直させなければなりません。これにはかなり勇気がいります。英語の辞書も(最近ではネットですが)何度も紐解かねばなりません。これらの仕事は夜や日曜日などプライベートな時間を使って行っているわけですが、かなりの負担です。また、全くのボランティア活動ですので、医学の発展のために尽くしたいという気持ちがないとできない活動でもあります。ただ良い点としては、出版前の最新の知識が得られる点や、最近ではPublons(https://publons.com/in/mdpi/)など論文の「レビュー」を行ったことを研究者の業績として扱ってくれるシステムもあります。僕には関係ありませんが、これから大学の教授などアカデミックなポジションを目指す方々にとっては良い時代になったと思います。最後になりますが、僕の「レビュー」のポリシーは決してreject(その論文の掲載拒否)にせず、major revision(採択のために、論文内容を大きく改変してもらうこと)でも採択を目指すことです。そのためには数ページに及ぶ改変点を記載せねばならないこともあります。自分自身も論文のレビューを受けて数行しかコメントがなくrejectと書かれたことが過去にあります。大変腹立たしい思いもしたし、こんなreviewerにはならないぞとも思いました。ですので、常に自分が執筆者だったらと考えて、努力しております。
古閑比佐志
- 資格・所属学会
-
日本脳神経外科学会 専門医
日本脊髄外科学会認定脊髄内視鏡下手術・技術認定医
日本脊髄外科学会
日本整形外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
最新記事 by 古閑比佐志 (全て見る)
- 論文をhandleするとは - 2021年5月21日
- 第12回日本低侵襲・内視鏡脊髄神経外科学会 - 2021年5月6日
- FESSとMELの腰部脊柱管狭窄症に対する治療成績の比較 - 2020年9月21日